日系イギリス人 カズオ・イシグロ氏 ノーベル文学賞 2017 受賞の朗報に寄せて

今年のノーベル文学賞をKazuo Ishiguro氏が受賞したという知らせに多くの日本人が歓喜の声をあげたに違いありません。私もカズオ・イシグロ氏の受賞が大変嬉しく気持ちが高揚しています。

Prize Announcement(ノーベル文学賞2017発表の様子)

   

The Nobel Prize in Literature 2017

Kazuo Ishiguro

The Nobel Prize in Literature 2017 was awarded to Kazuo Ishiguro “who, in novels of great emotional force, has uncovered the abyss beneath our illusory sense of connection with the world”.

2017年のノーベル文学賞はカズオ・イシグロに授与されました。「イシグロは感情に強く訴える力を持った小説を通して、世界と繋がっているという我々の幻想的な感覚にひそむ深淵を明るみに出した」。

(https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/literature/laureates/2017/)

ノーベル文学賞受賞決定後のインタビューの様子

カズオ・イシグロ氏は1954年に長崎で生まれ、5歳の時に、当時長崎県気象台に勤務していた父親がイギリスのサリー州にある国立海洋学研究所(National Oceanography Centre)に招致されため移住されたそうですね。

日本生まれで両親が日本人というバックグラウンドを持つカズオ・イシグロ氏が1982年に長崎を舞台にした処女作『遠い山なみの光』(原題:A Pale View of Hills)でデビュー、同年イギリス国籍を取得。1989年(平成元)には小説「日の名残り」で英国最高峰の文学賞ブッカー賞を受賞、1995年に大英帝国勲章、1998年にフランス芸術文化勲章を受章、そして今回のノーベル文学賞受賞と、眩いばかりの受賞歴をお持ちです。

お人柄も大変温厚そうで、カズオ・イシグロ氏の邦訳本を日本国内で独占的に出版している早川書房の早川浩社長曰く、

「自分の気に入った出版社のことを重んじてくれる。信義にあつく、人思いで温情がある。日本人ここにありきという感じだ」。  

カズオ・イシグロ氏のお人柄を知るにつけ、ますます嬉しく誇らしい気持ちになります。長崎に所縁がある方というのも私にとってはまた格別な思い入れがあります。

一方、日本から移住して英国に帰化したカズオ・イシグロ氏がどういった想いで幼少期から英国で暮らしていたのかに想いを馳せ、作品の重み・深淵さと重ね合わせる時、ある種の深い哀しみを覚えずにはいられないのです。

いつか日本に帰る日を夢に想い描きながら、異国の地英国で、周囲に家族以外には日本人のいない環境で過ごしたカズオ・イシグロ氏。日本に対して郷愁の念を抱きながら、幼い頃の記憶を懸命に描き続けていたのでしょう。

イシグロ氏は自宅の庭でのプレス合同記者会見で、

He said he hoped the Nobel Prize would be a force for good. “The world is in a very uncertain moment and I would hope all the Nobel Prizes would be a force for something positive in the world as it is at the moment,” he said.

“I’ll be deeply moved if I could in some way be part of some sort of climate this year in contributing to some sort of positive atmosphere at a very uncertain time.”

と、この不確実な時代に、全てのノーベル賞が世界をポジティブにする力になれれば、とノーベル賞の力に期待を寄せ、もし、私が何らかのポジティブな雰囲気に貢献できるのなら感慨無量である、と自らの願いを込めて語っています。

ノーベル賞を受賞されたことで、カズオ・イシグロ氏の作品が広く読まれるのは本当に嬉しいことです。EU離脱交渉下のイギリスでカズオ・イシグロ氏が受賞されたことは、英国で暮らす移民にとってはもちろんのこと、他国に移住した人々にも希望と勇気を与えるものではないでしょうか。さらには、国境や個人を超えた人間の普遍的なテーマを描くイシグロ氏の作品が、世界中の多くの人々の共感を呼び、作品の内なるメッセージを伝える契機となることでしょう。

『日の名残り』と『私を離さないで』はかなり有名だったので、邦訳本、原書ともに我が家にありますが、『遠い山なみの光』と『忘れられた巨人』を今度読んでみたいなと思っています。『忘れられた巨人』は『日の名残り』とともに、ノーベル賞選考委員会で極めて高い評価を得ているようです。

The Nobel committee praised his latest book The Buried Giant, which was released in 2015, for exploring “how memory relates to oblivion, history to the present, and fantasy to reality”.

近所の書店に出かけてみましたが、既に売り切れ。書店に注文が殺到しているようですね。

『日の名残り』のDVD版もお薦めです。映画は勿論のこと、特典版のメイキングシーンのDVDも素晴らしかったです。カズオ・イシグロ氏が語るシーンも見逃せません。
  

  

  

        

  

   

   

      
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   10月14日発売の文庫本

〈参考記事〉

Kazuo Ishiguro wins the Nobel prize in literature 2017
(https://amp.theguardian.com/books/2017/oct/05/kazuo-ishiguro-wins-the-nobel-prize-in-literature)

BBC News : Kazuo Ishiguro: Nobel Literature Prize is ‘a magnificent honour’
(http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-41513246)

『ノーベル文学賞受賞のカズオ・イシグロさん、騒ぎの渦中で落ち着き』
(http://www.bbc.com/japanese/41521067)

Kazuo Ishiguro – Interview(ノーベル財団)
(https://www.nobelprize.org/nobel_prizes/literature/laureates/2017/ishiguro-interview.html)

東洋経済オンライン『イシグロ氏「自分の中には常に日本がある」』
(http://toyokeizai.net/articles/amp/191976)

産経ニュース
 http://www.sankei.com/life/amp/171006/lif1710060005-a.html
 http://www.sankei.com/life/news/171005/lif1710050061-n3.html

Kazuo Ishiguro: how I wrote The Remains of the Day in four weeks
https://amp.theguardian.com/books/2014/dec/06/kazuo-ishiguro-the-remains-of-the-day-guardian-book-club