「 わたしのオックスフォード 」(川上あかね 著 晶文社)はオックスフォード大学の学校生活は勿論のこと、オックスフォード大学の持つ包容力と庶民性までも魅力的に伝えてくれる本です。
1970年生まれの著者が博士課程在学中に書いた本で、1987年の大学入試情報が記載されていることからもお察しのとおり、大学入試情報をそのまま役立てるわけにはいきませんが、その他の面では、伝統を大切にするオックスフォード大学であるゆえ、より一層歴史や趣きが感じられるところもあり、現在のオックスフォード大学と比較できて興味深い点も多いです。著者はケニア、イタリア、東京のインターナショナルスクールを経てオックスフォード大学に入学されています。
表紙裏の紹介文の中に、
とありました。99%以上が英国人学生ということに驚いてしまいますね。にわかには信じがたい数字です。オックスフォード大学の入学者選抜の歴史的変遷を感じないではいられません。
川上氏はこの本の中でオックスフォード大学生の授業や生活を初々しく学生の目線で伝えてくれています。運よくオックスフォード大学に入学することができても、成績が悪いと1年生の終わりに退学させられることを初めて知ったのもこの本でした。
教授とのチュートリアルの様子も生き生きと描かれています。フォーマルディナー、ボートレース、パンティング、舞踏会 etc. 生き生きとした言葉のやりとりが臨場感を増しています。
Blackwell’s書店のことも出てきて、一年前の夏訪れたことが懐かしさとともに思い起こされます。
著者はイギリス人の友人の家などでよくおいしい家庭料理をごちそうになったそうで、
とありますが、その点は息子から聞いた話と重なります。日本でも同じ和食であっても外食と家庭料理で全く異なるのと同じことなのでしょう。イギリス人の友達に尋ねると皆口を揃えて、「お母さんの家庭料理が一番美味しい」と言うそうです。外で食べるイギリス料理を本当のイギリス料理と思ってはいけないのですね。
この本で一番心に残ったのは、一年生の2学期を終えて日本に一時帰国した時にお母様から初めて知らされたお父様の癌のことが書かれたくだりです。
こんな手紙を校長からもらえるような大学が他にあるのだろうか、と感激した。
そして帰国してから2ヶ月後、ご家族が見守る中、お父様は静かに他界されました。
その後のオックスフォード大学の心温まる対応に、私も心を打たれました。大学に通わなかった3学期の学費が免除された上、奨学金をもらえることになったのです。日本の大学に通っていたとして、果たしてそのような柔軟な対応が期待できたでしょうか。事務的な処理に終わったのではないでしょうか。
人間いつ何時どんなことが待ち受けているかわかりません。親に万一のことがあったとしても、オックスフォードなら寮もあります。そのまま学業を継続できるのではないかという期待感を抱いたのも事実です。希望と言い換えてもよいかもしれません。
また、川上氏はオックスフォード大学生を貧乏学生だとしています。世間の抱くイメージとは大きくかけ離れているかもしれませんが。
「貧乏学生の衣食住」という一節に、東京の大学生とオックスフォード大生を比較した記述があります。
かたや「一万円均一」のペンダントを気軽に買い込む大学生。一方のオックスフォード大生と言えば、「私たちにそんな余裕はない。私だけではなく、オックスフォードの学生たちはみんな貧乏である。バーバリーとアクアスキュータムの国ではあるが、そんなブランド品を持っている学生などまずいない。
ほとんどの場合、イギリスの大学生は大学に入った時点で親から独立する。18歳で成人になり、家を離れて他の町の大学へ飛びたつ、というパターンが一般的だ。これは経済的な独立でもある。在学中に親から仕送りをもらっている学生はあまりいない。
……(中略)……
といったわけで、オックスフォードには「貧乏学生」のすがたがたえない。
とあります。
この一節を読んで、ブランド物で着飾る必要もないオックスフォードに非常に親近感を覚えました。私の中では富裕層でなくとも我が子が何ら卑屈になることなくやっていけるのではないかとポジティブに受け止められたのです。
今思えば身の程知らずな無謀な挑戦だと思われていたとしても不思議ではありませんが、この本を読んだことによりまだ見ぬオックスフォードに憧憬の念を抱き今があるわけですから、この本との出会いに心から感謝しています。