科学を探求する楽しさを教えてくれる「ケンブリッジの卵」

数年前、近所の古本屋で出合った本、「ケンブリッジの卵」(下村 裕著、慶應義塾大学出版会)をご紹介します。

コロンブスの卵は有名なお話ですね。それでは、ゆで卵を回転させるとどうなるでしょうか? 

ゆで卵をテーブルに置いて早く回すと、卵はやがて立ち上がります。
ゆで卵に限らず、ラグビーボール、レモンなど、楕円形の輪郭をもつ物体であれば、同じような現象が起こります。

物理学の世界で長年謎とされてきたこの現象を解明したのが下村氏です。当時、慶應義塾大学に所属し、ケンブリッジ大学に長期研究留学されていた間に、「回る卵はなぜ立ち上がりジャンプするのか」をテーマとして、モルファット教授との共同研究が始まります。

この共同研究により、この運動を表す方程式の解を得ることに成功した後も、さらに研究を進展させ、「高速で回すと、卵はテーブルからひとりでにジャンプする」という現象を予測し、日本に帰国後もさらに研究を重ねます。

そして、ついに「高速で回すと、卵はテーブルからひとりでにジャンプを繰り返しながら立ち上がる現象」を慶應義塾大学の同僚とともに日本で実証することができたのです。

2002年にはかの有名な科学雑誌「ネイチャー」にも掲載されました。

本書では「立ち上がる回転ゆで卵」の謎をどのようにして解明したのか、「回転ゆで卵のジャンプ」という未知の現象をいかに発見し実証したのか、またこの共同研究で学んだこと、英国留学の様子などが、生き生きと描写されています。

本の序文に掲載されているモファット氏の文章も素敵です。(冒頭部分引用)

Scientific research is an intellectual adventure, whose progress can have as many twists and turns as any other adventure of human spirit. It is an adventure that often calls for collaboration between scientists of very different backgrounds and sometimes from very different cultures ; the challenge that drives such adventure and collaboration is the search for truth and understanding within some field of observable phenomena.
科学研究は知的な冒険であり、その発展は人間精神の他の冒険同様、多くの紆余曲折が在り得る。それは、全く違う背景そして時には非常に異なる文化を有する科学者同士の協力をしばしば求冒険であり、このような冒険と協力を駆り立てる挑戦は、観測できる現象のなんらかの領域内における心理と理解の探究である。

科学を「知的な冒険」と表現されるあたり、科学者の持つ好奇心や高揚感が伝わってくるようですね。

自然界を見渡すと「たくさんの不思議」が溢れています。「どうして?」と疑問を抱いた現象に、いかに科学的にアプローチしていくのか、ユーモアを交えながらわかりやすく描写されています。時折目にする当時の写真や図面なども臨場感を増し、一層興味が掻き立てられます。

大人も子供も楽しめる本です。科学者を志す中高生も是非読んでみてください!

まだ子供にあどけなさが残る頃、ワクワクしながら親子で読み進めたノンフィクションの物語。早速、親子でゆで卵をつくりテーブルの上で回転させてみたことは言うまでもありません。

科学探求の挑戦と楽しさを疑似体験できる「ケンブリッジの卵」を、ご家族でぜひお楽しみください。

慶應義塾大学出版会のリンクはこちら↓です!
http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766413342/

 

 
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