「2020年の大学入試問題 (講談社現代新書) 」(石川一郎著)を拝読しました。石川氏は「21世紀型教育を創る会」の幹事、かえつ有明中・高等学校の校長を務められています。
新聞や雑誌等の記事によりご存知の方も多いと思いますが、2020年から大学入試が大きく変わります。入試がどのように改革されるのか、まだ不確定要素が多いのですが、確実なのは現行の大学入試センター試験が廃止され、それに代わっておそらく高校2年生の時に高等学校基礎学力テスト(仮称)が行われ、3年次にセンター試験に近い形で「大学入試希望者学力評価テスト(仮称)が設定されるそうです。その後、各大学個別の独自入試が行われることになるようです。
大学入試が変わると高校卒業までの教育も変わらざるを得ません。今回の大学入試の改革は、従来の学校教育の反省を元に、高校時代までの学校教育を根底から変革することを目指していると言えます。従来の断片的な知識を暗記するだけで乗り切れた問題とは違い、知識と知識のつながり、知識の背景を論じる思考力が要求されます。
本書では2015年1月に順天堂大学医学部の入学試験で出題された問題「≪キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい。≫を例として、2020年の大学入試問題の傾向と対策が述べられています。2020年からの大学入試は、端的に言えば、「論理的思考力」「批判的思考力」「創造的思考力」が要求されると言えるでしょう。
最近目にすることが多くなった「クリティカル・シンキング」という言葉ですが、「批判的思考力」と日本語に訳されています。「批判的思考力」とは必ずしも批判的に思考する力という少々排他的なニュアンスをもつのではなく、知識や情報を分析・吟味して思考を深め、独自の視点で判断する能力のことです。客観的な把握をベースとした上で、疑うことなく受け入れるのではなく自らの頭で思考する能力とも言えます。「批判的思考力」と訳すと非難するというイメージが強いためか、「クリティカル・シンキング」とカタカナ表記されることが多くなってきているようです。
クリティカル・シンキングの力をどうやって高めるか、そのための取り組みをいち早く始めた かえつ有明・中高等学校ではケンブリッジ大学を卒業し、哲学を専攻したアレックス・ダッツン先生を中心にTOK (Theory of Knowledge)「知の理論」型授業を実施しているそうです。同校ではこのTOK型授業を「哲学授業」と呼び、哲学をテーマに対話型の授業を展開されているようです。TOKはIB(国際バカロレア)のディプロマ(DP。16歳から19歳までを対象とした大学入学資格)で、国際バカロレアのディプロマの資格を得るためには必須の科目となっています。
日本では先進的な取り組みですが、これがグローバル基準なのかもしれません。これまでは知識を暗記してそれを再現することで高得点が望めた大学入試も、トップ大学の独自入試を中心に様変わりしていくことでしょう。
ちなみにオックスフォード大学出版局から「Theory of Knowledge」と「知の理論」が販売されています。「知の理論」は日本語での初めての翻訳本となります。
「TOK」「クリティカル・シンキング」ともに、これからの教育界でますます注目されるキーワードとなりそうです。