「白洲次郎 一流の条件」(宝島社)の心に残る名言から一流の生き方を学ぶ

「白洲次郎 一流の条件」仕事と人生の格を上げる40の心得(宝島社)の中から心に残る言葉をいくつかご紹介したいと思います。


白洲次郎のことを知ったのは、つい1年ほど前のことです。宝島社が何かの雑誌で白洲次郎のことを取り上げていたのです。

この本の帯に「GHQと渡り合った男の成功哲学から着こなしまで」とありますが、お恥ずかしながら、その時までこのような方がいらしたことすら知りませんでした。

というのも、大学受験では世界史を選択していましたし、日本史の授業も原始時代から現代までの順に学習するので、昭和の初期くらいまでしか取り扱われなかったのです。確か、受験で日本史を選択する人だけ冬休みに補講があったような…。

大人になってから通訳案内業国家試験のための勉強をし、予備校のテキストを使って日本史や日本文化のことをかなり勉強しましたが、そのテキストの中にも一度も取り上げられていなかったので、白洲次郎という人の存在すら知らないまま生きてきました。

一年ほど前のある日のこと、書店で宝島社の雑誌を手にした私の目に留まったのは、はっきりとは覚えていませんが、白洲次郎という人が日本の高校(旧制中学)卒業後、英国のケンブリッジ大学に進学されたということと、その凛とした一本筋の通った生き様だったような気がします。

私の脳裏に白洲次郎の存在が刻まれたわけですが、そうした中、先月のことだったか、近所の書店で、「白洲次郎 一流の条件」に巡り合い、白洲次郎と再会したわけです。

 
白洲次郎の語る一流の条件とは、いかなるものなのでしょうか。

本書の冒頭部分には、

「すべての言動にプリンシプルがはっきりしていることは絶対に必要である。………(略)……… 全てにおいて原則をはっきりとさせ、自分の頭で考えてそれに基づいて発言したり行動することが大切だと考えた白洲次郎。この信念は仕事での姿勢や人付き合い、趣味・趣向においても然りである。現代に生きる我々へ、次郎のプリンシプルから一流の条件を学ぶ。」

と書かれています。

本書ではリーダーとなる人に欠かせない資質が白洲次郎の生きた言葉とともに綴られています。白洲次郎の娘婿である牧山圭男氏による著書で、当時の白洲次郎の語り口が目に浮かぶようです。

商業主義がはびこり、利己主義が蔓延しているように見える現代こそ、一本筋の通ったプリンシプルを持ったリーダーが求められているのではないでしょうか。

心に残る言葉をいくつかあげてみます。

 本物の紳士たる者  真っ直ぐな正義を持ち続ける

「白洲次郎は、日本人としては珍しく建前と本音を使い分けない人だった。プリンシプルを通す姿勢は、オフィシャルでもプライベートでも一貫していて、それを外す姿を見た覚えがない。」
公においても、次郎は権力に擦り寄るとか、金に汚いやつを嫌っていた。「たまたま巡り合わせで得ただけの地位や権力」を才能だと思い、自分が偉いと勘違いして威張るような奴もしかりである。次郎自身は目下の者にほどやさしく、決して威張るようなことはなかったのである。」

「プリンシプル(principle)とは、日本語に訳すとすれば原理原則。それを曲げない姿勢をBe gentleman”(=紳士であること)として次郎はケンブリッジでの留学時代に学んだという。」

「白洲次郎の生き方から伝わってくる、類稀なる潔さや清涼感。それを根底から支えるものは何かといえば、彼が英国で学んだ”プリンシプル”であり、そこに端を発する”プリミティヴ(素朴)な正義感”だろう。………(中略)………それは、やはり次郎がときに口にしていたという言葉「ノーブレス・オブリージュ(noblesse oblige)」、直訳すれば「位の高いものの責務」とも相通ずる。………(中略)………それはいかなる権威にも怯まず(むしろ権威をよしとせず)、筋の通らないことには厳然としてノーを言う精神であり、強きをくじき、弱きを助ける精神といってもいいだろう。」

私がケンブリッジ大学・オックスフォード大学の教育に魅力を感じる理由のひとつがこのノーブレス・オブリージュの精神にあります。また、どちらの大学も自分の頭で考えることに重きが置かれているという特長がありますが、その点もオックスブリッジの教育が高く評価されている所以だと思います。

この「自分の頭で考えることを大切にする」という姿勢は、ケンブリッジへの留学時代、物理学の教授のクラスで試験を受けたときの記述にもよく表れています。

「君の答案には君自身の考えが一つもない」と書かれていた。次郎はその瞬間、はっとすると同時に、痛快な喜びが込み上げてきたという。やってやろうじゃないか!自分の頭で考える…… 以来、次郎が生涯を通じて大切にしていたことである。」

確かに、教わったことを懸命にノートにとって復習し、試験ではその過程を再現するような記憶力重視のテストや択一問題では、自分の頭で考える習慣は身につきません。自分の頭で考えるということは、すなわち一人一人考え方が異なって当然であり、自分の考えを自由に表現できるためには、考え方の多様性を受け入れてくれる土壌がなければなりません。また、教育において正解が一つに決まっている問題にばかり対処していると、自分の頭で考える力が身につきません。日本の教育の本質的な問題をも示唆しているように思えます。

この本は、「仕事と人生の格を上げる40の心得」という副題からすると、読者層として社会人を想定されているのかもしれませんが、これからの未来を創っていく高校生や大学生の方など若い世代の方々にも一度は手に取っていただきたい本です。心がまだ柔軟な若い年代だからこそ心の琴線に触れる言葉もあるのではないでしょうか。

 太字部分:引用
※「敬称略」

【追記】

4月20日に「白洲次郎 100の言葉」(宝島SUGOI文庫)が発売されました。白洲次郎の言葉とその解説が見開き2ページに簡潔にまとめられています。こちらもお薦めです。