AI先進国イギリスが生んだディープマインド創設者天才デミスとの出逢い 藤原正彦著「知れば知るほど」より

先日、藤原正彦氏の「知れば知るほど 管見妄語」(新潮社)を読了しました。

ケンブリッジ大学で数学を研究・指導されたご経験のある藤原正彦氏の書かれた著書の中には、ケンブリッジ大学はもちろん、オックスフォード大学に関する記述も少し見られます。オックスフォード大学で講演をされたこともあるとのこと。独特のウィットやユーモアの効いた文体に惹きこまれながら、あっという間に読み終えてしまいました。

「週刊新潮」の人気連載コラムを集めて編集したものらしく、1つ1つのコラムは3ページ程度で、気軽に読み進められます。ユーモア溢れる語り口の中にも、現代社会に警鐘を鳴らすような示唆に富む内容も多く、今まで想像したこともない、あるいは気づかなかった視点が得られたような気がしています。

エッセイ風なので、読み進めること自体に面白みや喜びがあります。国際連合、人工知能、EU離脱、グローバリズムなど、さまざまなテーマに関する氏の幅広い見識に基づいた明解な分析と痛快なコメントに、目から鱗が落ちる思いがいたしました。

第4章のタイトルに「教養を積むとは無知を知ること」とありますが、文字通り、何かを学べば学ぶほど、自らの無知を知るということを意味するのでしょうか。

特に印象に残った文章の一節を「ある天才の危うい挑戦」から少しだけ引用してみます。

 グーグル参加のイギリス企業の囲碁ソフトが、欧州チャンピオンのプロ二段に五連勝したのである。
………(中略)………さらに、調べると、この画期的なソフトの開発の立役者はデミス・ハサビスという天才とあった。腰を抜かした。
 デミスなら20年ほど前東京で会ったことがある。………

出逢いのきっかけは、ケンブリッジ大学時代の同僚の方から当時19歳だったデミス青年が東京に行く予定があるから会ってくれないか、ということだったようです。デミス青年はその同僚の方の数学と囲碁の弟子だったそうです。

藤原氏はデミス青年の囲碁の腕だめしとして日本棋院を勧め、将棋では友人のご子息で麻布高校将棋部だった東大生を紹介されたそうです。

その滞在期間における二人の間での囲碁ソフトの将来性についての率直なやり取りが印象的に記されています。
     

 一時間ほどの四方山話の中でこう尋ねた。「ゲーム開発で才能を示したのになぜ大学で数学やITを学ぼうとするのか」「もっと学問を深めて大きな仕事をしたいと思いました」「大きな仕事」「実はプロを負かす囲碁ソフトを作るのが夢です」「将棋のソフトはニ、三十年もたてばプロに勝てるようになるだろうが、囲碁の方は計算量が膨大だから、単なる改良ではない、本質的なブレイクスルーが必要だ。人間の高次な思考である類推のような機能を持つものを作らないと無理と思う」。

      
そのデミス青年はというと、

 彼はケンブリッジのコンピュータ科学を最優等で卒業し、数年間IT企業で働きながらMSO(頭脳スポーツオリンピック)で世界チャンピオンに五度もなった。とゲームを捨て、脳科学を学ぶためロンドン大学の大学院に入学した。そこで、脳の海馬の損傷により記憶喪失した者は自分の未来を想像できなくなる、という画期的論文を著し、サイエンス誌でその年の科学十大発見の一つに挙げられた。
 しかし数年で学究生活にピリオドを打った彼は、ディープマインドというAI関連の会社を2010年に設立した。これが四年後に、デミスの天才に惚れ込んだグーグルにより七百億円で買われたのであった。消えることの多い神童の大成がうれしかった。………(以下省略)         

藤原氏のアドバイスが天才デミスの内面にどのような影響を及ぼしたのかについては知る由もありませんが、ディープマインドの創始者デミス氏と交流があったことに驚きました。

この本には著名な数学者や国内外を問わず歴史上の人物、文学、政治など、さまざまな分野の話題が出てきます。教養があるとはこういうことなのか、と得心させられます。

Rome was not built in a day.「ローマは一日にして成らず」といいますが、教養も一日では身につきませんね。

教養とは果てしなく深いもので、私など一生かかっても教養が身につきそうもありませんが、自分の「無知」をさらに自覚したことで、これも教養を積んだことになったのかも!?……。 (^-^; 
     

藤原正彦氏にはご著書が多く、数冊読んだことがあるのですが、
    

    

上の2冊は特に印象に残っています。「遥かなるケンブリッジ」は特にケンブリッジ大学について知りたい方にはお薦めの一冊です。

    

黒字太字部分 引用
※一部敬称略
※頭脳スポーツオリンピック(MSO : Mind Sports Olympiad)

〈参考〉
 デミス・ハサビス(by ウィキペディア)