オックスフォード大学の成績評価 — 記述式問題の採点方法

2021年1月から始まる新しい大学入学共通テストで採用される記述式問題の採点をめぐって、問題点が噴出しているようです。これは予め予想された事態だとも言えますが、記述式の採点者に学生アルバイトを含めることを文部科学省が認めたことで、事態は深刻な様相を呈しているようです。

学生アルバイトと言えば、大学時代に全国規模の某模擬試験の英語の採点に関わったことがあります。大学の掲示板を通じてアルバイトに応募したのですが、採点基準は冊子で渡されるものの、ほとんどぶっつけ本番だったような記憶があります。一点に一喜一憂する受験生の身になってみれば、どこまで厳密に採点できたのか疑問が残りますが、模擬試験で場数を踏み、本番に向けて準備する好機とするのであれば、受験生にとっては十分に意味があることでしょう。しかしながら、大学入試で学生アルバイトが採点することになると、事は一大事です。人の一生を左右する大学入学試験を、大学の先生ではなく学生アルバイトが採点するのは、大学受験の合否に対する信頼性も失いかねない由々しき事態であると思います。入試の公平性が失われてしまうことを危惧しています。

新大学入試で浮上した「採点問題」と題して、週刊東洋経済 2019.7.27にオックスフォード大学教授苅谷剛彦氏の記事が掲載されていました。その中で、苅谷教授はオックスフォード大学の成績評価について言及されています。拙ブログを読んでいただいている読者の中にはオックスフォード大学に関心のある方が多いと思われますので、以下に一部を引用してみたいと思います。
   

 「ところで、私の勤めるオックスフォード大学では、成績評価における最終試験の比重が大きい。論文試験と呼んでいいほどの長文の記述式だ。学生は3時間かけて3問の問題に1問当たりA4で4~5枚分の解答を書く。全部で12~15枚分の答案になる長大な論文試験だ。しかも問題自体が抽象的で、知識の再現ではなく、学期中に大量に読んだ文献から学んださまざまな知識を自分なりに組み合わせながら解答する。知識を主体的・批判的に再構成する能力が求められるのだ。独創性も評価される。
 採点には相当の時間を費やすが、科目を教える教員にもう1人がついて2人で行う。2人の採点を基に、合意された得点が最終結果となる。採点は厳格に行われるが極めて主観的だ。主観的だが、2人の結果を合わせると、ほぼ一定の幅に収まる。それでも10点以上の差が出た場合には、大学外の試験委員が裁定する。その判断も主観的だ。しかも最終試験の結果は大学院進学や就職などその後の進路に重大な影響を及ぼす。
 学生が自分の個性を発揮して主体的に書いた答案を、教員が主観的に採点する。この方法が公平性を疑われずに続いてきたのは、採点者への信頼が根本にあるからだ。独創性のある答案を評価できる読み手の能力への信頼である。」
(引用ここまで)

  
採点者に対する信頼がなければ、記述式の問題の採点結果を受験の合否に採用すべきではないと個人的には思っています。以前、東京大学の受験生の体験談を目にしたことがありますが、1点ではなく0.25点の差で涙を飲んだというケースがあります。それくらい合否のボーダーライン上で熾烈な競争が繰り広げられている現状を考慮すれば、採点者の能力不足のために1点未満の点数が足りず、一年間の浪人生活を余儀なくされるようなことがないよう、学生アルバイトによる採点は避けるべきではないでしょうか。

大学入学以前に記述式に対応できる能力を培うことは大切ですが、それとこれとは別の問題です。大学受験は公平で信頼に値するものでなければならないと思います。オックスフォード大学では採点者への信頼が根本にあるからこそ記述式問題が機能していますが、日本の大学入学共通テストに拙速に記述式を導入しようとすることは避けるべきです。採点能力のない採点者に採点を委ねることほど大学、受験生双方にとって不利益を被ることはないからです。