レガシー優先入学のないオックスフォード・ケンブリッジ・MIT・Caltech・カリフォルニア大学群

日本ではあまり馴染みのないレガシーという言葉ですが、アメリカの大学受験に関する本ではレガシーという言葉をよく目にします。

親や親戚が卒業生の学生は「レガシー(Legacy)」と呼ばれ、ハーバード大学などアイビーリーグの大学や州立の名門大学にはレガシー優先入学制度があります。イエール大学出身の元アメリカ大統領のブッシュ父子やペンシルベニア大学出身のトランプ大統領の例はよく目にしますが、オバマ前大統領のお嬢さんもハーバード大学に入学されたのでレガシーといえますね。

レガシー優先入学の歴史的背景や真の目的については、「アメリカの大学の裏側」(アキ・ロバーツ 竹内 洋 著)に詳しいのですが、その中の一節に、

大学をワスプ以外の学生に乗っ取られると危惧したアイビー・リーグ関係者はレガシーなど上流階級の白人に有利な学力以外のと特性も考慮するホリスティック入試を思いついた。このような入試方法を行えば学力テストでどんなに高得点をとろうとワスプ以外の学生を「校風に合わない」と不合格にすることができる。つまりホリスティック入試は白人支配階級の再生産のために作られたのである。しかし時間がたつにつれて「個性を尊重する」とか「多様性による教育の活性化」などその時代にあった聞こえのいいフレーズにかえられ、他の名門大学も真似をし始めた。

とあります。

日本の大学入試改革の方向性がアメリカのホリスティック入試をモデルとしているように見受けられる今日、一人でも多くの方にご一読いただければと思います。

さて、話はもとに戻りますが、レガシーが自分に有利に働く人はさておき、自分がレガシーでない人は、レガシー優先入学制度のない大学に積極的にチャレンジした方が合格の可能性が高まるはず、あるいは実力を正当に評価してもらえる可能性が高いのではないでしょうか。

「アメリカの大学の裏側」によれば、レガシー学生の合格率は一般学生に比べると3倍~5倍ほど高く、

       一般学生   レガシー
ハーバード   6%  →  30%
プリンストン  7%  →  33%
スタンフォード 5%       →       15%

となっています。

プリンストン大学の社会学者トーマス・エスペンシェイドと共著者が3校の名門私立大学への志願者を調べた研究によると、「レガシーであること」は1600満点の入学試験で平均的に160点の下駄を履かせたぐらいの威力があった

そうです。

レガシー学生であることがそのままその学生が「レガシー優先入学」で合格したことを意味するわけではなく、レガシーの人数は公表されるものの、「レガシー優先入学」で合格したのか本人の実力では入ったのかは、レガシー本人にも知らされないし、誰も知り得ない不透明な入学者選考過程となっているようです。

いまだにアメリカでは8割以上の名門大学でレガシー優先入学を行っているといわれていますが、アメリカの名門大学の中にもレガシー優先入学のない大学があります。

マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア工科大学(Caltech)、そして、カリフォルニア大学群( UC Berkeley・UCLA・UC San Diego etc. )です。マサチューセッツ工科大学は元々レガシー優先入学制度がありませんでしたが、カリフォルニア大学群は以前は存在していたレガシー優先入学制度を撤廃したそうです。

こうしてみると、世界的に名門大学ではレガシーを優先している大学が多いように受け取られるかもしれませんが、実際にはそのようなことはなく、

「レガシーである」というステータスを大学入試で優遇するのは世界でもまれである。イギリスのオックスフォード大学もケンブリッジ大学もそのような入学方法はない。

とありました。

2014年12月の面接の時期、オックスフォードの街でガイドツアーに参加した時のことを思い出します。ガイドさんがオックスフォード大学の歴史的変遷を説明される中で、オックスフォード大学入試にまつわる誤解を解くために、オックスフォード大学にはレガシー優先入学がないことを強調されていました。また、印象的だったのは世界でトップレベルの教育・研究を行うためには、世界中からトップレベルの優秀な研究者や学生を集めなければならない、とおっしゃっていたことでした。そのため大学は人種やレガシーに関係なく、アカデミックな能力あるいは潜在能力の高い研究者や学生を集めようとしているとのことでした。大勢の人が観光でオックスフォードの街を訪れます。ツアーガイドさんからオックスフォード大学入試に関するお話がうかがえるとは思ってもいませんでしたが、ガイドさんを通じた地道な広報活動にも好感が持てました。

オックスフォード大学・ケンブリッジ大学にはスポーツに秀でた人が選考で有利になるスポーツ優先入学枠というものもありません。この点でもハーバード大学をはじめとするアメリカの名門大学とは異なります。前述のトーマス・エスペンシェイド氏と共著者による研究によると、アメリカの名門大学の入試ではアスリートであることは200点を加算したと同じ効果があるそうです。

大学入学者選考に関しては英国のオックスフォード・ケンブリッジ大学とアメリカのアイビーリーグをはじめとした名門大学では選考基準が異なるので、どちらの大学が自分に向いているか考えた上で、チャレンジした方がよいと思います。イギリスとアメリカの名門大学両方ともに合格しようとするのは必要な対策も異なるので虻蜂取らずになる確率がかなり高いです。

日本では偏差値を基準に自分の学力に見合った学校選択をするケースが中学受験・高校受験・大学受験を通じて多いのではないでしょうか。海外の大学を選択するにあたっては、偏差値というものがそもそもないので、大学ランキングを参考に選ぶ場合が多いかもしれませんが、何よりも自分にあった大学選択が大切となります。

数年前MOOCsのオンライン講座 Courseraで学んだ講座「Applying to U.S. Universities」の中で、大学選択にあたっては本人がsurviveするのではなくflourish 、thrive 、shineする大学を選ぶことが大事だと教わり、flourish 、thrive 、shine、という表現を使われたことに感動したことを覚えています。日本では受験というと頑張るとか努力するという表現が頻繁に使われているような気がしますが、その先生の言葉を聞いて、有名だからとか難易度が高いからという理由ではなく、本人が輝ける、潜在能力を開花させ、伸び伸びと本領を発揮できる大学を選ぶことが一番大事だと改めて思いました。そうしたことを考え合わせると、大学選択にあたっては、難易度だけではなく大学の立地やサポート体制・人的環境・学習環境など広い意味での環境条件を考慮することが極めて重要なのではないかと個人的には思っています。

海外の大学に進学を検討されている方にとって少しでもご参考になれば幸いです。